弱点のない腕時計に潜む弱点(ポルトギーゼは最初の一本になり得るか)

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 皆さん、IWCの腕時計はお好き?

アメリカ人を創業者として今日まで発展してきたIWC。スイスに籍を置きつつも、腕時計製造の中心地から微妙に外れたドイツに近い立地「シャフハウゼン」を本拠地にする「頑固&ヘンコ」な姿勢、私は大好きです(*´∀`*)

製品開発にもその姿勢は如実に現れ、どちらかといえば地味で凄さの伝わりにくい時計が多いのも特徴です。しかし、IWCらしさはまさにそこにあると解っている人たちが、IWCの時計を熱烈に支持しているのだと思います。私自身もそんな一人。スイス製ではIWCほど「質実剛健」を感じさせるブランドも珍しいと思います。

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西新宿の某カフェにて一人淋しく(IW324002)

拠点をドイツ語圏のシャフハウゼンに置いている影響か、IWCの時計にはドイツ的な設計思想が根付いています。しかしそれでも、IWCはあくまで「スイス製の時計である」と私は思っています。私の手元には現在「パイロットウォッチ オートマチック36(IW324002)」しかありませんが、手元のドイツっ子たち(ジンやユンハンス)と比べると、ほのかに女性的な華やかさを感じるからです。消費者がスイス時計に求めるラグジュアリーな最低限の部分を、IWCが密かに意識して残しているからかもしれません。

IWCは非常にバランスの良い腕時計を作るメーカーです。「デザイン」「機能」「価格」がそれぞれに腑に落ちる形で製品を成しており、奇をてらったところがありません。何というか…解る人には「解りやすい腕時計」なんですよね。ゆえに購入を目論む人が不安にならなくて済むというか、万人が安心して買えるブランドだといえます。

そう、IWCの腕時計は「安心して買える」のです。そして入手後は不満なく「安心して使える」でしょう。

使えば間違いなく納得できるIWCの腕時計ですが、問題はそれを「体験してもらう」ためのきっかけ作りです。IWCはこの手の仕掛が何とも弱い。これは宣伝にお金を使っていないとかそういう問題ではなく、IWCが一貫して標榜している「質実剛健」の姿勢が、派手な宣伝や煽りと相性が良くないためだと思っています。

確かにIWCには派手なPRは似合わないでしょう。実際、IWCほどのブランドにしてはパートナーシップ活動は地味めです。そもそも派手な宣伝活動はIWCを支持する「玄人」ファン層との相性が良くありません。IWCが好きな人たちは「超人気ブランド」になりきれないIWCの「奥手な感じ」そのものに惹かれているフシがあるからです。

IWCの現行ラインナップは「ポートフィノ」「ポルトギーゼ」「パイロットウォッチ」「アクアタイマー」「インジュニア」「ダ・ヴィンチ」の6つで構成されています。さて、こうして見た時に、どのラインが「フラッグシップ」なのかひと目で解りますか?

例えば「入門機」のように思われている「ポートフィノ」ですが「IW516501」はポートフィノでありながらトゥールビヨンを搭載し、価格も「684万2000円」もします。日本でも愛好者の多い「パイロットウォッチ」だって「IW503604」「552万2000円」です。

ラグジュアリーラインの「ダ・ヴィンチ」は総じて高価で、中でも「IW393101」などはトゥールビヨンを搭載したクロノグラフで「1277万6500円」と恐ろしいお値段が付いています。IWCって超高級ブランドなのですよ。

ならばIWCのフラッグシップは「ダ・ヴィンチ」なのか、と問われれば、多分…違うでしょう。IWCがブランドのイメージと威信を載せて売りたいのは「パイロットウォッチ」「ポルトギーゼ」だろうなぁ~と思います。これは何度かブティックに赴いたことで解りました。

そしてこの2つがフラッグシップに据えられていることが、IWCというブランドの「弾けづらさ」を如実に現しています。ぶっちゃけ腕時計の初心者にしてみれば「渋すぎる」のです(;´Д`)

「パイロットウォッチ」に関しては言わずもがなですが、「ポルトギーゼ」にしても他所のブランドにソックリさんが多すぎますよね。どちらも腕時計デザインの公式解のように完成された時計ですし、似せようとすれば形だけならそれほど難しい形状ではありません。

似たようなデザインが氾濫していたとしても、買い手がしっかりと本質を見極めれば、数万円の「もどき」「本物」を混同することはないでしょう。しかし「よく見るデザイン」はイコール「ありふれたデザイン」にも通じます。私の「オートマチック36」にしても「よく見るデザイン」ですし、実際に腕に巻くまではその実力には気付けないかもしれません。そうなんです。IWCの腕時計は素人さんからすれば些か「凄さが見えづらい」のです(;´∀`)

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ポルトギーゼ・​クロノグラフ(IW371617)
出典:https://www.iwc.com/jp/

「ポルトギーゼ」の場合も同じではないかと思います。「ポルトギーゼ・クロノグラフ」は登場から20余年、安定したセールスを維持し続けてダイアルのバリエーションなども増えました。実際、他のブランドの似たような腕時計のほとんどが「クロノグラフ」を意識した作りですし、見た目だけで判断しがちな初心者からすれば「同じような時計なのに値段違いすぎ」となるのは理解できます。だったら安い方で良いんじゃね?と考える人も少ない数ではないでしょう。

これは何もIWCの腕時計に限った話ではなく、最大の被害者がロレックスなのは間違いないでしょう。しかし、ロレックスは折を見て消費者に発信することを忘れませんでした。曰く「コピーやパクリを身に着けるのはダサいですよ」と。と言っても決して直接的な表現で、それら「もどき」を買ってしまった消費者を非難しているわけではありません。「それって格好悪いよね?」と消費者心理に微かな影響を与える訴えかけが上手なのです。完全に腕時計マスコミを味方に付けてますしね。

「ポルトギーゼ」は見るからにシーンを選ばない時計ですし、これから先の流行にも左右されないでしょう。つまり今後も「不変の価値を持ち続ける腕時計」なのです。今後もよほどのことがない限り、IWCの企業理念は鉄板でしょうし、市場やユーザーにソッポを向かれるような弱点を晒すこともないでしょう。私が「安心して買える」と考える所以です(*´∀`*)

ただ「ポルトギーゼ」のような腕時計は、これといった弱点がないからこそ、ユング的な「リビドー」を掻き立てるような存在にはなりにくいかもしれません。人間には少なからず「ダメな存在」を応援する判官贔屓なところがありますし、不足も過剰もない「ポルトギーゼ」のような完成度の高い腕時計に対しては「付け入る隙がない」と感じてしまいがちです(;´Д`)

ロレックスの凄さはあれだけ高価な時計でありながら、多様な経済的事情を持つ消費者から満遍なく支持されているところでしょう。特に大した収入を得ているわけでもない私くらいの人間にも「欲しいと思っても許される」と感じさせる魅力があるのです。

それは一言でいえば「可愛げ」だと思います。「リセールバリューの高さが魅力」なんて言われるロレックスですが、そんなものは売らなければ意味がありません。つまり「買わせる要素とは関係ない」のです。

思うに、ロレックスには多くのファンをメロメロにするアイドル的な「可愛げ」があって、そこに「付け入る隙」を見つけた人たちが大枚を叩いてでも応援したくなるという、数値化されない「魅力」があるような気がします。

ロレックスのブティックに再三「パトロール」赴いて感じたことですが、ロレックスの腕時計デザインには必ずどこかに「ドレスダウン」の要素があるのです。これはロレックスの理念の一つ「労働者のための腕時計」が関係しているような気がします。つまり、タキシードのような肩肘張る作りではなく、せいぜい「スリーピース」を目指しているのではないかと。

労働者に寄り添う(にしてはお高いですが…)性能の一つとして、何らかの「隙間」を作ることで、ファンの支持を得やすい当たりの柔らかさを演出しているのがロレックスというブランドなのではないでしょうか。故に「最初の一本」の栄誉と「最高到達点の一本」の栄光を同時に満たすことができるのです。

比較するとIWCの腕時計は、まず「最初の一本」にはなりづらいかもしれません。「玄人受けするブランド」というイメージが先行してしまっていますし、何となくですがブティックの構えも厳しい感じがします。入りづらいんですよねぇ(心斎橋のIWCでもそんな風に感じました)

もうこの時点で「付け入る隙きがない」のです。さらに言えば大枚を叩く潜在的な目的の一つ「他人との差別化」についても、個性的とは言い難い「ポルトギーゼ」のような渋い時計を身に着けることでの達成は難しいでしょう。どう考えても外面でドヤれる時計ではありませんし、何と表現すべきか悩みますが…「自己満足型腕時計」とでも言いましょうか、どちらにせよ、高級時計をひけらかしたいと考える人が納得して買うには厳しい気がします(;´∀`)

もちろん、このIWCの腕時計に共通する特徴を逆説的に捉えれば、腕時計の玄人さんにとってIWCは「たまらないブランド」ということになるでしょう。エントリーモデルとみられる「ポートフィノ」ですら、初老の紳士のような雰囲気がありますし、玄人の皆さんが「オレたちのためのブランドだ!」と支持したくなるのも当然です。そして、そういう皆さんは今後のIWCに望まぬ「方針転換」を求めてはいないでしょう。

「最初の一本」にIWCが選ばれることはまれかもしれません。しかし、IWCの腕時計には「一本は手元に欲しい」と思わせる底なしの魅力があります。アンティーク市場での「オールドインター」の人気もその一つ。「ヨットクラブ」などには状態の良い個体が多いのも特徴で、それはIWCが長くファンに愛されてきた証だとも言えます。

隙きがなく、少々取っ付きにくさのあるIWCですが、将来的に何の後悔も生まない「買って損のない腕時計」であるのは間違いありません。腕時計に興味のある人が2本、3本と購入する途上でIWCの腕時計と出会うのは、むしろ「必然」なのですから。

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