長らく「行かねばなるまい!!」と秘めた想いをくすぶらせていた「ケンテックス直営ブティック(東京都台東区)」への訪問が叶ったのは2025年2月のこと。突然の取材依頼にも関わらず自由に見学させていただいたことで、我ながら渾身の「ケンテックス ブティック 訪問記」を書くことができました。
公開前に記事の試読をお願いするメールをケンテックス広報にお送りしましたところ、株式会社ケンテックスジャパンの「橋本直樹代表」から、身に余るほどご丁寧なメールを頂戴しました。そこには「ブティック訪問記執筆」に対するお礼と「是非一度、直接会ってお話がしたい!!」と熱のこもったメッセージが記されていたのです (*´∀`*)
ケンテックス ブティックで「代表」とお会いしました
そこまで言ってもらって応えなかったら私の「男」が廃れます。ですので間髪入れずに再度「ケンテックス直営ブティック」さんを訪れて、代表とお会いすることにしました。2度目も近隣のドトールで精神統一を兼ねた昼食をとってからの訪問。う~ん… やはり緊張しますねぇ (;´∀`)
そもそも「KENTEX(ケンテックス)」とは、どんな腕時計ブランドなのか??
続いて、ケンテックスジャパン橋本代表にお願いして実現した「インタビューの再現記事」をご覧いただくわけですが… その前に、ケンテックスの「基礎知識」となる「歴史」を振り返ってみましょう。
| 年 | トピック | 概要 |
|---|---|---|
| 1989 | 会社設立 | 橋本憲治氏がKENTEX社創業。KENTEX TIME Co., Ltd を香港にて設立。時計製造における豊富な知識を蓄え、日本の大手メーカーや欧州の有名ブランドにOEM供給を行うウォッチメーカー「ケンテックス」が誕生。 |
| 1998 | 自社ブランド「KENTEX」を本格始動 | ケンテックスは、創業から蓄積してきた技術力とノウハウを基に98年、自社ブランド「KENTEX」を立ち上げ。同年には自社ブランド初のモデル「S82M」を発表。自社ブランドとしての第一歩を踏み出す重要な節目となった。 |
| 1999 | KENTEX初の自動巻きモデルESPYを発表 | ミレニアムを記念したKENTEXのフラグシップとなるモデルを作りたいという思いで開発をスタート。自社モデルとして、初の自動巻きモデル「ESPY S153M」を発表。 |
| 2000 | KENTEX初のETA2824搭載モデル発表 | スイス製ETA2824を搭載した「S122M CONFIDENCE」を発表。KENTEXウォッチではこれまでで最高仕様のモデルとなる。「日本で40個発売の世界限定!」と銘打ち、発売後わずか1か月で完売するヒットに。 |
| 2001 | JSDF 陸、海、空シリーズをスタート | 陸・海・空の各シーンでプロユースに応える本格スポーツラインを確立。アウトドアやマリンスポーツに対応できる能性を持ち、現行機の先駆けとなった。 |
| 2002 | ETAバルジュー7750ムーブメントを搭載した本格自動巻きモデルランドマン2(S294X)を発表。 | Valjoux7750搭載モデル「S294X-7750 」を発表。ETA2824のさらに上を目指して機械式クロノの傑作と言われる名作Valjoux7750を搭載。限定50本のシリアルを付番,本塗りの黒の高級木箱入りのハイエンドモデルとして登場した。 |
| 2003 | 初の回転計算尺搭載モデルを発表。 | KENTEXユーザーの要望から始まった回転計算尺搭載「S368X-7750」。メモリの精度など満足するまで試作を繰り返し、プロが使っても問題のないパイロットウォッチの開発に成功した。 |
| 2003 | ESPYからスイス製自動巻きモデル発表。 | Valjoux7750を搭載した重厚で気品のあるクラシックモデル「S349XESPY2」を発表。クロノ操作のプッシャーはあえて製造困難な角ボタンにこだわり、丸みを帯びた菊リュウズの頭には天然のブルーサファイアをあしらった。ケンテックスの品質水準を一気に引き上げた逸品となった。 |
| 2004 | 軟鉄インナーケースによる超耐磁モデルを発表。 | 64000A/mの超耐磁性能を持つスーパータフを発表。屈強なボディの作りは強力な磁界にさらされる技術者、研究者、レスキュー隊などのスペシャリストに向けて設計された本格派モデルとして登場。 |
| 2004 | 日本ブランド初の“トゥールビヨン”を発表 | 複雑機械式時計の最高峰である“トゥールビヨン”を、日本ブランドとして初めて発表。本物主義を追究するケンテックス社の技術力の高さを改めて証明する。 |
| 2005 | JSDF自衛隊モデル開発 | 高い技術力と品質が認められ、防衛省本部の全面協力の下、日本で唯一となる自衛隊時計を開発。自衛隊時計は、厳しい基準をクリアし、陸・海・空の各自衛隊員が使用する過酷な環境に耐えうる高い耐久性と精度を実現。 |
| 2007 | プレステージウォッチ「CRAFTSMAN」を発表 | ケンテックス10周年を記念した、時計メーカーとして誇れる時計を造りたい。という思いから、開発した「S526M CRAFTSMAN」。ケンテックスでこれまで培ってきた技術を集結し、耐磁・耐衝撃・トリチウム発光を備えた究極の実用時計となった。 |
| 2008 | 300M潜水防水ダイバーウォッチを発表 | 本格300M潜水防水ダイバーズ「S601M MARINEMAN Super Dive」を発表。従来の保守的なデザインから逸脱した新しい方向性を示す挑戦なモデル。 |
| 2009 | スイスメイドによるCRAFTSMAN発表 | ケンテックスとしては初のスイスメイドにこだわり、世界で僅か77個の限定生産の「S526X-01 CRAFTSMAN-7750」を発表。2007年に発売をしたS526Mの後継機として、ETA7750を塔載。ETA2824を搭載した3針モデル「S526X-02 CRAFTSMAN-2824」も限定88本生産で発売。 |
| 2010 | ブルーインパルス50周年記念モデルの製作 | 航空自衛隊のアクロバット飛行部隊、「ブルーインパルス」の結成50周年記念モデルを製作。バルジュー7750ムーブメントをベースに、自社開発したCal.1989ムーブメントを搭載したスペシャルモデルとなる。 |
| 2012 | 日本初の高振動マルチファンクションモデルを発表 | 日本初となる、28,800振動のハイビート、マルチファンクションモデル「エスパイ アクティブ」を発表。 |
| 2013 | ISO準拠の潜水防水時計「マリンマン シーホース」を発表 | 国際標準化規格ISO6425に準拠する200M潜水防水時計「マリンマン シーホース」を発表。ケンテックスにおけるダイバーウォッチのフラッグシップモデルとなる。 |
| 2014 | 創業25周年記念モデル発表 | KENTEXの技術を総結集した25周年記念クラフツマンフラッグシップ3モデルを発表。 60000A/mを越える超耐磁と耐衝撃構造。ハイビートムーブ、チタン、セラミック、カーボンを融合したハイブリッド仕様。 |
| 2018 | パーマロイインナーケースによる超耐磁モデル発表(100,000A/m) | これまで市場に無かった、10万円アンダーから購入できる最強耐磁時計「S769X PROGAUS」を発表。 |
| 2019 | ISO6425準拠 300M潜水防水ダイバーズ発表 | 30周年の節目として原点に立ち返り、本質的な技術力・企画力・デザイン力が試される本格ダイバーウォッチ「S706X MARINEMAN Sea Angler 」を発表。 |
| 2023 | KENTEX初となる国産自動巻きGMTモデルを発表 | グローバルに活躍する人々にとって理想的な、ラグジュアリースポーツGMTをコンセプトに開発された、マリンテイストの自動巻きGMYモデルを発表。 |
| 2024 | KENTEX35周年記念モデル発表 | 創業以来、流行を追うのではなく、時を経ても価値が色褪せない時計作りを目指してきたKENTEXが、創業35周年を機に「時を超える日本の輝き」というテーマに取り組んだモデル。悠々の時を感じさせる海をテーマに挑戦の象徴として「舷窓」をモチーフにしたユニークなベゼルデザインに、江戸切子の美しいシースルーカットガラスが裏蓋に採用されている。 |
ブランドとしてはまだまだ「若い」とも言えるケンテックス。とはいえ、その歴史に見え隠れする試行錯誤の数々は、時計ブランドの成長譚として非常に見応えのあるものです。
それでは、これら歴史を踏まえた上で「二代目代表」橋本直樹氏のメッセージをご覧下さい。
ケンテックスへの道 ── 異業種からの転身
(インタビュアー・砂布巾)──本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。
ケンテックスジャパン橋本代表「こちらこそ、ありがとうございます。腕時計喫茶さんでの記事にとても感動しまして…ここまで深く理解してくださったのが嬉しくて、ぜひ直接お話ししたかったんです」
──恐縮です。まず、代表はもともと時計業界とは違う分野にいらしたとか??
橋本代表「はい、化粧品会社で技術開発をしていました。全然畑違いの世界でしたが、28歳の時に父から『手伝ってくれ』と言われて。父も63歳で後継を考える時期だったのかもしれません」
──異業種から時計業界へ、ギャップも大きかったのでは??
橋本代表「正直、最初は戸惑いました。化粧品は高級品でも10万円程度。時計は1000円から1000万円超までありますから。値段の幅に驚きましたが、逆に『面白いな』とも感じて。この世界に飛び込むきっかけになりました」
二代目としての苦悩と誓い
──ブランドを継ぐうえで大切にしていることは??
橋本代表「父の代で培ってきたものを『壊さない』こと。そして、自分の色を出していくことです。このバランスはとても難しい。二代目は『創業の情熱』と『現代的な変化』の板挟みになりやすいですから」
──ご自身の経営観にも変化はありましたか??
橋本代表「最初は経営に興味もなかったんです。でも、ケンテックスを続ける中で『これは本気でやるべき仕事だ』と意識が変わってきました」
『純血主義』と家族経営の重み
──腕時計愛好家には、ブランドの「純血を重んじる傾向」がありますが。
橋本代表「確かに、家族経営だからこそ伝わる想いや哲学ってあると思います。でも実際、家族経営は大変です。資本の力に頼れば楽にはなりますが、『変わらない価値』は失われてしまうかもしれない」
──その「変わらない価値」とは??
橋本代表「誠実なものづくりですね。たとえ小さなブランドでも、その信念は持ち続けたいと思っています」
ブランドと海外市場への姿勢
──海外市場での展開について、最近はどのように考えていらっしゃいますか?
橋本代表「海外では『日本製=高品質』というイメージが未だ強く、それが売りやすさにも繋がります。商売としてやるなら『メイド・イン・ジャパン』という価値をしっかり打ち出すべき。そこをうまく差別化に活かすべきですね」
──なるほど、それによってケンテックスブランドに変化が起きるかもしれませんね。
橋本代表「そうですね。そこは慎重に考えていきたい。小さなきっかけが大きな路線変更になりますから。そのつど創業の理念に立ち返って、それに沿っているのかを真面目に考えないといけません」
──ユーザーの目は厳しいですもんね。
橋本代表「ええ。戦略が変われば、お客さまにも如実に伝わりますからね」
──経営の現場でも、そういった価値観の攻防はあるのでしょうか。
橋本代表「見えないところで丁々発止ありますよ。ユーザーの目は鋭いので、ブランド力だけではなく、ちゃんと価値を感じ取って使ってくれてる方に向けたもの作りが肝要です」
変化と原点回帰の気付き
──先ほど仰っていた「お客さんに伝わる変化」に関してはどのようにお考えですか??
橋本代表「そうですね。『あのモデルから変わった』とみんなが感じる瞬間って確かにあります。戦略の変化が製品に如実に現れて、それをファンは見逃さない。時計の価値って、そういう変化の積み重ねで作られていくんですよね」
──確かに、ユーザー側もそこは解っていると思います。
橋本代表「はい、単にブランドネームで買う人ばかりじゃなくて『ちゃんと感じて選んでいる』人が多いと感じます」
──現在のケンテックスのユーザー層について、どんな傾向がありますか?
橋本代表「40代以上の方が多いですね。ある種の『原点回帰』です。若い頃に尖っていた好みから一周して、モノづくりの根源的な部分に立ち返る人が増えてきた… そんな流れを感じます」
──大人になった時計ファンによる「再発見」ですね!!
橋本代表「まさにそうです。若い頃は『ケンテックスなんて好みじゃない』と思ってた人が、年齢を重ねて『むしろこれが良い』と言ってくれる。そういう声を聞くと嬉しいですね」
──業界全体で見ると、新規ユーザー獲得が課題とも聞きますが…
橋本代表「そうですね。普通は『どうやって新しい層を取り込むか』を考えるんですけど、私は『分かる人に届けばいい』という気持ちの方が強いです。もちろん商売ですから売上は大事。でも、分かる人が選んでくれるモノづくりをしたいんです!!」
──その信念、素晴らしいと思います!!
橋本代表「海外の時計もすごいですが、日本の良さは『実用性の高さと適正価格』。その本質を守らずに価格やブランディングだけで勝負すると、やっぱり日本人の感性には合わないと思うんです」
──わかります。ケンテックスの時計からは、上辺じゃない「誠実さ」を感じます。
・
・
・
日本製品の「高品質イメージ」に驕ることなく、誠実なモノづくりを続ける「ケンテックス」。先代代表が大切にしてきた時計作りのエッセンスを守りつつ、次代のケンテックスとは何かを模索し続ける橋本直樹・現代表。二代目の苦労と、だからこその「やり甲斐」についてお話を伺いました。
続いては「ケンテックス自慢のモデル」について、お話を伺って参ります。
MARINEMANの秘密
──本日はケンテックスさんにお邪魔するということで「MARINEMAN SEAHORSE II(旧モデル)」を着けてきました。実はこのモデル、初めて見たときから〝なんか違う〟と感じていました。構造的にも相当に凝ってますよね??
橋本代表「そうなんですよ。このモデル、実は『ケンテックスの設計思想』を凝縮したような存在でして。今日、その図面も持ってきたんです」
──なんと!!「図面」を!?… 拝見しても良いんですか?? これは貴重です!!

橋本代表「断面を見ると分かるんですが、このベゼル、普通の構造と全然違うんです。通常は、ガラスのフチを隠すためにベゼルを高くしているんですが、それだと時計全体が分厚くなってしまう。うちはあえて『見せる設計』にして、ガラスも薄く抑えているんです」
──だから着け心地も軽いし、厚ぼったさがないんですね。
橋本代表「ええ。しかもガラスはサファイアなので、薄くすればするほどコストも跳ね上がる。厚くすれば強度は出ますが、ケース全体の厚みも増してしまう。だから『見せる構造』と『適正価格』の両立って、実はめちゃくちゃ難しいんです」

──これはもう、設計思想そのものがデザインになってますね。
橋本代表「ありがとうございます。でもね、こういう設計のこだわりって、普通は説明しても伝わらない(笑)。それでもやっぱり、そこは諦めたくないですね」
使いやすさの交差点を狙え!!
──防水構造と薄さの両立って、相当難しいですよね。
橋本代表「本当にそうなんですよ。ダイバーズウォッチは特に、防水性を確保するためにどうしても厚くなってしまいがちで。ヨーロッパのブランドはその厚みを『格好良さ』として見せますが、日本は同時に『実用性』を求めますからね」
──「日本人特有の設計思想」かもしれませんね。
橋本代表「はい。当社の場合、装着性や使いやすさを最優先してるんです。見た目の派手さよりも、日常的な快適さ。だから、MARINEMANではベゼルをあえて低くして、ガラスの縁を『見せる』設計にしてるんですよ」
──隠さず勝負してるというわけですね。
橋本代表「そうなんです。ただその分、ガラスの厚みやコストに影響が出ます。サファイアガラスは特に高価で、通常のミネラルガラスの10倍くらいします。だからそこを薄くして成立させるには、精度と仕上げ、設計のすべてが高いレベルで噛み合っていないと無理なんです」
──「トレードオフの世界」です。
橋本代表「まさにそれです。ものづくりは基本的に『何かを取れば、何かを捨てる世界』です。軽くすれば耐久性が落ちる。コストを下げれば素材が妥協される。でも、その中で最良のバランスを模索するのが、設計者の仕事なんですよ」
──そのバランスを「デザイン」に昇華させているところが、見事だと思いました。
橋本代表「ありがとうございます。実は父の代からずっと『機能と美観と使いやすさの交差点を狙え』って言われてまして。今もそれを軸にやってます」
──今まさにその「交差点」が見えてきた気がします!!
適正価格と誠実な設計思想に見る「日本らしさ」
──MARINEMANの図面を拝見して思いましたが、設計のこだわりやコストとの向き合い方に「ケンテックスらしさ」を感じます。
橋本代表「日本のものづくりって、やっぱり『実用性と適正価格』が本質だと思うんです。高いだけのブランドではなく『本当に価値あるものを、納得できる価格で届ける』。それが日本製のあるべき姿かなと」
──スイスブランドと真っ向から違う方向性ですね。
橋本代表「例えば『見た目の高級感』だけを追うような作りは、うちには合いません。それで値段が上がっても、なんだか本質的じゃない。見た目じゃなくて、使って実感する価値を大事にしたいんです」
──ユーザー目線に徹していらっしゃるのが伝わってきます。
橋本代表「加えて、うちは『設計思想がそのまま製品に表れる』ような作り方をしています。すべて社内で設計し、自社で組み立て、仕上げまで一貫して行う。いわゆる『垂直統合型』ですね」
──セイコーさんのような、昔ながらの日本的体制ですね!!
橋本代表「そうなんです。私の父もセイコー出身なので、その影響も大きいと思います。スイスは水平分業が主流ですが、日本には『一気通貫で作り込む文化』があります。それは伝え続けたいと思っています」
──設計思想が製品に現れる… ケンテックスの時計が纏う「空気感の正体」が理解できた気がします!!
橋本代表「そう言っていただけると嬉しいです。設計思想って本当に、ちゃんと表に出るんですよ。見る人が見れば『あ、この設計者は本気だな!!』と分かってもらえるはずです」
江戸切子を裏蓋に採用した35周年モデル「CRAFTSMAN 時帆」

──ケンテックス35周年モデル「CRAFTSMAN時帆」では「船の窓」をモチーフにされていましたね。
橋本代表「そうです。変わらない価値を象徴するデザインとしてそのようにしました。舷窓は嵐の中でも船を守り、進む象徴でもある。そんな強さを表現したかったわけです」

──裏ぶたのガラスに「江戸切子」を採用されています。あれは本当に美しい。
橋本代表「ありがとうございます。でも、実はあれ『江戸切子が主役』ではないんです。あくまで時計の魅力を引き立てるための存在なんですよ」
──えっ!?主役じゃないんですか??
橋本代表「はい。江戸切子を全面に押し出すのではなく、あくまで時計がメインの設計なんです。甲冑のように裏から美を支える役割といいますか。ムーブメントを美しく見せるための演出として、切子を添えています」
──なんて奥ゆかしい!! まさに「名バイプレーヤー」ですね。
橋本代表「ええ、それこそが日本らしさだと思っています。実際に使っている『矢来文様』も、かつて戦で人を守るための防護柵を表したもので『身を守る』という意味合いが込められているんですよ」
──なるほど、それで甲冑と… そう聞くと余計にグッとくるものがあります!!

橋本代表「そうでしょう?? ただ、江戸切子ってガラスの厚みや形状が複雑なので、職人さんにとっても大変なんです。しかも、見えている部分はごく一部。そこに『こだわる意味』を問われることもありますが、そこをやるのが、ケンテックスの『らしさ』です」
──職人さんとの共同作業だったんですか??
橋本代表「お願いした職人さんは、伝統工芸の初代で、2代目や3代目もおられるような方。非常に柔軟で『こういう挑戦がしたい』というこちらの想いにも真摯に応えてくださいました」
──まさに、目立たせるためじゃなくて「魂を込めるためのこだわり」ですね。
橋本代表「そういう『奥行き』って、実はユーザーにもちゃんと伝わるんですよ。語らなくてもわかる人にはわかる。それこそがケンテックスが向き合う客層ですし、だからこそ妥協できないんです」
「CRAFTSMAN 時帆」はブレスレットも秀逸!!

──「時帆」はブレスレットもスゴいですね!! 欧州の一流どころに迫る仕上げだと思いました。
橋本代表「ありがとうございます。完成後の仕上げは本当に苦労して。これだけのコマ数があるものに、綺麗な面をキープしたまま磨くというのは相当な技術が必要なんです。これもわかる人にしかわからないかもしれませんが、そこをちゃんとやるのが私たちの仕事だと思っています」
──わかる人に届く「美学」ですね。
橋本代表「まさにそうですね。2023年の35周年記念モデル『CRAFTSMAN 時帆』では、『変わらない価値』をテーマにデザインしました。船の舷窓をモチーフに、ウッドデッキを思わせる仕上げも施しています。普遍的な価値を、美しい外装で表現したかったんです」

──「時を帆に乗せる」… とても詩的です。
橋本代表「ありがとうございます。『ラグジュアリー』というのは、ただ煌びやかにすることではなくて、『本質を磨くこと』だと考えています。その中で、ケンテックスとしての姿勢や思想もきちんと伝えられればと」
──江戸切子もそうですが、先人の残した良いものを大切に残そうという気持ちが伝わってきます。
橋本代表「そうなんです。このモデルに関しては『歴史の中にちゃんと位置付ける』ことを意識していて、単なる話題性ではなく、ケンテックスの文脈の中に自然と存在できるような一本にしました」

──ブレスレットのテーパードも絶妙ですよね!!
橋本代表「そうなんです。実は3コマ分にわたってテーパードをかけているんです。2コマの方が製造が楽でコストも下がるんですが、3コマ構造にすることで、より自然で美しいラインが出るんです。時間も手間もかかりますが、それこそが『ケンテックスらしさ』なんですよ」

──全てに意味と理由がある… 設計に哲学を感じました。
橋本代表「そういってもらえると冥利に尽きます。私たちはこの先も『語らずとも伝わる時計作り』を目指します!!」
素材と色の選び方にも「哲学」がある
──前回の取材から多くのモデルを拝見して思いましたが、ガラスだけでなく、ケースやダイヤルの素材選びにも、かなりこだわりがあると感じました。
橋本代表「おっしゃる通りで、素材選びはデザインと同じくらい重要です。例えばチタンを使うときも、ただ『軽いから』じゃなくて、加工性や表面の質感、肌への当たりまで考慮して選んでいます」
──ステンレスとはまた違う、柔らかい光の反射が美しいですよね。
橋本代表「ありがとうございます。実は、金属の光り方って、表面の平滑度や角の仕上げで変わるんです。だから『反射の質』まで考えながらポリッシュする。そこまでやって、初めて『高級感』と呼べる質感が出せるんです」
──なるほど、ユーザーはそこに「上質」を感じると。
橋本代表「そうなんです。日本人の感性には『控えめだけど確かな存在感』が合っていると思うんです。色も同じで『わざとらしくない美しさ』を目指しています」
──たしかに、どのモデルも「強さ」と「淑やかさ」を両立していますね!!

橋本代表「ありがとうございます。色や素材の選定には、デザイナーと何度も話し合って『なぜこの色なのか』を明確にしてから決めます。カラーバリエーションにしても必ず『意味のある選択』にしたいですから」
・
・
・
ケンテックスを代表する2つのモデルに纏わる「秘話」を聴かせていただきました。実用時計としてのコストの限界に縛られつつも、そこに最大限のアイデアを注入して生まれた「マリンマン」と「時帆」。
ハイコストパフォーマンスとブランド・アイデンティティーを両立するための「イノベーションの数々」に拍手を贈りたいと思います。
時代に求められる「ブランドらしさ」

──ここまでお話を伺って、ブレないこだわりや価値観に「ケンテックスの凄み」感じています。
橋本代表「ありがとうございます。『うちのブランドらしさ』って、実はそんなに目立つ部分ではないんです。でも、長く付き合ってくれるお客様や、2本目を買ってくださる方から『わかるよ』って言っていただけることがあって。それが一番嬉しいですね」
──「らしさ」を押し出すんじゃなくて、感じてもらう… 寡黙な職人の世界ですね。
橋本代表「日本ってそういう国民性なんだと思うんですよ。出しゃばらず、でも本質では譲らない。そういうものづくりが、きっと世界にも通じると思っています」
──そうした「日本らしさ」「ケンテックスらしさ」を海外にも届けたいですね!!
橋本代表「もちろんです。すでに欧米やアジアでの販路もありますし、特に『日本製』への信頼は高まっていると感じます。ただ、ブランディングをしっかりしないと、せっかくの魅力も伝わらない。そこは今後の課題です」
──私たち「メディア側」の出番かもしれません。
橋本代表「そうですね。作り手と伝え手が一緒に『ブランド価値』を築いていけるような関係が理想です。時計って『買った後の体験』が本当に大切で、それがユーザーとブランドの関係を強くする… ですから『ケンテックスを使う』ことの意味やストーリーを、解りやすい形で届けていきたいと思います」
世代を超えて受け継がれる“日本的な美”

──最後に、今後の展望をお聞かせください。
橋本代表「やはり『本質的なものづくり』を続けたいですね。流行に乗るよりも、10年後にも愛される時計を作りたい。そのためには、日本の文化や美意識を、もっと深く取り入れていく必要があると思っています」
──時代が変わっても、変わらない価値を大切にすると??
橋本代表「はい。私たちは『継承と革新』のバランスを取ることで『日本らしさ』を次の世代に繋いでいきたい。派手さではなく、しっかりとした作りと丁寧な設計。そこにこそ、うちのブランドの未来があると思っています」
──本日は貴重なお話をありがとうございました!!
橋本代表「こちらこそありがとうございました!!」
最後に… 「二代目」が起こす上昇気流が、ケンテックスをさらなる高みへ誘う

ケンテックスといえば「自衛隊コラボ」。腕時計に造詣が深い方でもそんなイメージをお持ちかもしれません。コラボレーションが全面に出てしまうとブランド本来の「味」は薄まりますし、その辺りに「軽さ」を感じて、ケンテックスを「甘く見ている」方もいらっしゃるでしょう。
ハッキリ申します。その認識は「完全な誤り」です。
そもそも「自衛隊コラボモデル」も「ケンテックスだからこうなった」みたいな時計ばかりです。実機を拝見すれば解りますが、断じて話題性だけを追って作ったような時計ではありません。特に「ブルーインパルス60周年限定モデル」の凄まじい拘りにはワタクシ、ため息が出ました。「こりゃあ逸品だわ!!」と脱帽するしかなかったのです。
インタビューのクライマックスは創業35周年モデル「CRAFTSMAN 時帆」でした。ケンテックス公式が「一生物の時計」と謳うそれは、誇張なく「生涯使えるタイムレスな価値」を感じさせるものでした。驚くべきは、そんな「時帆」が『22万円から』買えてしまうという事実です。
近年、数多のマイクロブランド時計を購入し、堪能しているワタクシですが、その面白さの根幹は何と言っても「チャレンジスピリット」です。小規模ブランドだから可能な「大胆な挑戦」が、停滞気味の高級腕時計世界に新風となって吹き荒れています。
「時帆」を拝見した私は、そこにマイクロブランドと同じ「チャレンジスピリット」を感じました。要するに「この価格でこの品質はどうだ!!」と言わんばかりの、挑戦的姿勢を見たのです。
ブランドブティックを常設するレベルにある「ケンテックス」さんのことをマイクロブランドと呼ぶ人はいないと思いますが、その底流にはこれからの成長を目論むマイクロブランドと同じ「進取の気風」が流れています。日本人が日本人を意識して作った時計であるケンテックスが、その「日本的な良さ」を武器に世界で評価されつつある… 世界の潮流にもまれながらも自らの立ち位置を変えない姿は、まるでサムライのよう…
伝統と革新の間で揺れ動く橋本代表の心中に触れて、ブランド「二代目」が抱える苦悩を少なからず理解することができました。しかしながら、橋本代表が吹かせた「上昇気流」が、ケンテックスブランドを次のステージに押し上げるエネルギーになっていることも事実です。
実際、時計実機から伝わる不思議な熱量にあてられて、次々と欲しくなる自分に戸惑いを感じるくらいでした。「今年は時計購入を控えよう」と思っている私ですらそうなのですから、性能・質感・お値段に拘る「今まさに腕時計が欲しい諸兄」にとっては、それこそ「目に毒」でしかないかもしれません(笑)
ケンテックスをご覧になったことのない方は、是非とも実機に触れてください。東京・上野の直営ブティックなら、過去作を含めて「ケンテックスの世界観」を存分に味わうことができます。皆さんも私と同様に、物欲をかき乱されてヘトヘトになりましょう!!
遠方の方は取り敢えず、公式ページをご覧になって下さい。私のオススメは「プロガウス シリーズ」です。とにかく好き!! (*´∀`*)
コチラは「公式オンラインショップ」です。
マリンGMT アイスブルーMOP
先程オンラインショップを覗いたとき、不覚にも(?)これが深々と刺さりました (笑)

やばいでしょコレは!! 掛け値なしに「格好良い!!」ですもん (*´∀`*)











ご意見・ご感想
コメント一覧 (4件)
こちらの記事を拝読して、時帆、鉄紺を購入しました…!
実機を見に行く機会は作れなかったのですが、詳細な紹介と熱いお話に背中を押されてネット注文させていただきました。
今開封したところですが、想像以上の満足感です!素敵な記事をありがとうございます😊
ラー太さま、お久しぶりです♫
コメントありがとうございます!!
「KENTEX クラフツマン時帆 鉄紺」のご購入おめでとうございます!!
ワタクシの拙稿が背中を押してのご購入…
物書きとしてこんなに嬉しいことはありません (泣)
社長にもお伝えしておきますね。
「時帆」スゴいですよね!!
加工精度も高く、それがトータルデザインを底上げしている。
何枚も写真を撮りましたが、惚れ惚れするような美しさでした。
一体、幾らの時計なんだよと。
私からも「時帆の良さを解って下さってありがとうございます」と言わせて下さい!!
「時帆 鉄紺」楽しんで下さいね(*´ω`*)
やっぱり日本ブランドは応援したくなりますね〜
手に取りやすい価格は本当にありがたい!
マリンマンデカ厚でかっこいい!
堅実な雰囲気がありながら、アニメとコラボしてたり
幅広い層へのアプローチにチャレンジしてるのも好感が持てますね!
Y太さま、コメントありがとうございます♫
恐らく、腕時計の実物を見ずに評価を決めている人がほとんどだと思いますが、ケンテックスさんもその被害を受けている気がします。
私はすでに一本所有していますので、実力に関しては十分に理解しているつもりでしたが、2度の取材を経て、考えを改めました。
実際、実物を拝見すると、欲しい時計ばかり。
無知な自分が恥ずかしいです。
全てのブランドが欧州のラグジュアリーに倣ってブランディングする必要はありません。
あくまで一般消費者のための実用時計としての立場を軸足に、様々なコラボで目線を変える柔軟さこそが、ケンテックスさんの強みだと思います。
マリンマンシリーズはマジでかっちょ良いですよ!!(*´ω`*)