「MINASE(ミナセ)の時計をお迎えしなければならない」… 実際、私が脳内で長年構築してきた「腕時計コレクション完成図」を見れば、そこには明確に「GSとミナセは必要である」とあります。当然ながら、どこかのタイミングで円満に入手して「落ち着きたい」と考えていました。
そうなのです。「ミナセ」をコレクションに加えるまでは、まるで大きな「やり残し」があるかのように、落ち着かない気持ちが解消されないのです (;´Д`)
「日本人の思考」で作られた時計が欲しい
「ミナセがないと落ち着かない」… それはなぜか?? この思いを再確認したきっかけは、少し前の「GS購入」まで遡ります。
わざわざ旧モデルを選んで購入した「グランドセイコー SBGC007」。それがもたらしてくれた幸福は、単に「グランドセイコー」という〝日本で最高の腕時計群〟… その内の一本をコレクションに加えることができたという、シンプルなアクチュアリティーを指すものではありません。
何気に多くの外国製高級時計を購入して、今もそれらに囲まれる生活を送っている私がたった一つ不満に感じていたことがあるとすれば、それらに対抗できる「日本製高級時計の不在」でした。
このままだと自分が「欧州かぶれのミーハー野郎」になってしまいそうでしたし、日本人の視点で欧州の価値観と対峙するためには、誰が見ても腑に落ちる「日本の良い時計」を所有する必要があったのです。そうして普段から「ハマるピース」を探していたわけですが、いざ「日本人のセンス100%」を具現化した時計を探し始めると、意外なほど納得できるものが無い。
一つの切り口に過ぎませんが、日本の近代デザインの成り立ちを思えば、それも仕方がない事情があります。私も美術大学でデザインを学んだ人間ですが、そもそも日本の美術教育ってヤツは、その軸足のほとんどを「欧州の美意識」に頼っているのです。
素晴らしい「日本製の腕時計」に触れて満面の笑みを湛えている最中でも、脳裏では「これは欧州の○○に影響受けてるな」と透けて見えることがあります。目の前の腕時計を「素直に喜びたい」のに、余計な知識が邪魔になる場合もあるのです。
まず、母体の「協和精工」さんがスゴい

すでに2年も前になるでしょうか… とあるイベントで「ミナセ」を拝見したときに、ある種の「確信」を得ました。まず、「ケースが凄まじい」。少なくとも同じ価格帯でこんなケースを使っている時計は存在しません。
時計メーカー「ミナセ」の母体は「協和精工株式会社」さんという、国内… いや、世界でも屈指の精密加工技術を持った企業です。ドリルなど金属を加工するための機器を多数手がけているため、腕時計のケース製造に関してもお手の物と言えます。
また、高精度の組み立て技術に関してもトップクラスのノウハウを持っているので、精密に削り出したケース部品を隙間なく組み立てることに関してもエキスパート。
そんな協和精工さんが時計のケース製造に乗り出すのは自然の流れだったかもしれません。OEMとして時計のケース、ブレスレットの設計・製造を請け負う中で、貴重なノウハウを得た協和精工さん。そうして2005年に自社ブランド「MINASE」を立ち上げ、設計から製作を一貫して手掛けています。
ちなみに「ミナセ」さんのブランドロゴは「ドリルのシルエット」だそうです。魂のドリル推し!!(笑)
同じ時計を製造するメーカーから設計のアドバイスを求められることもあるなど、実質、日本一の製造技術を持った時計メーカーとも言える「ミナセ」。近年はダイヤルなどにも卓越したセンスと技術を発揮。ため息の出るような高い完成度でコレクションを充実させています。イベントで実機を拝見した際、私もしばし放心させていただきました (*´ω`*)
スゴいのにスゴさをひけらかさない…「ミナセ」
「この外装で中身が自社製ムーブメントだったら、それこそとんでもない」… そんな風に思うことが何度もありました。価格は当然跳ね上がるでしょう。しかし「ミナセの外装」は端から「高価格帯のそれ」。手間のかかる複雑な別体構造は、本来もっと高価格帯の時計で挑むべきジャンルですが、ミナセはそれを当たり前に熟しています。
一度でも実機をご覧になれば、この「ヤバさ」をご理解いただけるはずです。しかもそれを押し出してアピールするでもなく、購入しやすい抑えた価格で提供し続けている… 解りますか?? この奥ゆかしい感じがたまらなく「日本」なのですよ。
だからといって自分たちを安く見ているわけではなく、そこはかとなく製造業の「プライド」を感じさせるところがまた良いのです。その昔、大阪梅田の鮨の名店で大将を誉めちぎったら「やめてえな、こんなん当たり前の仕事やから」と照れ隠しで返されたことがありましたが… まさにそれ!!「ミナセ」の時計からはそれと同じものを感じてなりません。
「ミナセ」に行き着く〝必然〟

他では見られない独特のデザインもすこぶる良い!!「SEVEN WINDOWS(セブン ウインドウズ)」なんて、まるで〝日本伝統の組み木細工〟じゃないですか。そこに漂う「絶対的な上品さ」。日本人の美意識を支える「自然との調和」すら感じさせるコレクションだと思います。

長らく「日本人の思考で作られた時計が欲しい」と思っていました。その一つの答えとして個性のカタマリである「SBGC007」をお迎えしたわけですが… それこそ「ミナセ」は〝日本人の魂〟を具現化した時計を作っているように見えました。
山にあっては木々の実りに感謝し、海にあっては豊かな幸に感謝する… そんな当たり前のことを繰り返してきた日本人の「永久不変」のようなものを「ミナセのデザイン」から感じる… なんて言うと失笑されるでしょうか??
ことさら愛国心を云々したこともない私ですらそんな風に感じるのですから、「国産」に拘る方ならもっと多くのことを「ミナセの時計」に感じるかもしれません。
酔狂にも百本超の腕時計を所有している私にしてみれば、そんな「ミナセ」を持っていないことは些か不自然な気がしたのです。日本人が日本の腕時計に言及するとき「ミナセを知る」は〝必然事項〟なのではないか… そんな折、貴重なご縁をいただいて「ミナセをお迎え」することになりました。
「HORIZON(ホライゾン)」を購入!!

初めて購入する「ミナセ」なら、多くの方が「SEVEN WINDOWS」や「FIVE WINDOWS」といった「WINDOWS シリーズ」か、独創と挑戦を感じさせるキレキレの造形でありながら、普段使いにも適した「DIVIDO(ディヴァイド)」を選ぶのではないでしょうか??
ところが、現物を拝見した刹那、私のマインドにグサリと突き刺さったのは「HORIZON(ホライゾン)」でした。その理由は… 何でしょうね(笑) まあ、しいて言うならば、着けたときの意外な腕載りの良さと、デザインに見え隠れする「着崩しの可能性」でしょうか。
「ミナセ」のデザインは極限まで計算されたもので、それは金属加工技術の最高到達点を「これでもか」と見せるための意匠です。その素晴らしさ、志の高さは日本人として誇らしくもありますが、例えば「SEVEN WINDOWS」の場合、着ける側も相当な「覚悟」を持たなければなりません。
計算され尽くした造形美を自分のファッションとして取り込むためには「SEVEN WINDOWS」の志に見合う「人間的な完成度」が必要なのです。これは私の私見に過ぎませんが、試着するたびにそのような命題を突きつけられた気がしました。

全てのモデルに言えることですが、単に「美しいだけではない」のが「ミナセ」です。美術品として珍重される刀剣も、その正体は危険な「武器」。刀剣の美しさに魅入られたコレクターさんの中には、刀剣と向き合うために居合を修めた方もいると聞きました。ミナセの腕時計… 特に「SEVEN WINDOWS」には、刀剣のような凄みを感じてなりません。
そんなミナセさんのラインナップで、私が一番「付き合いやすい」と感じた時計が「ホライゾン」でした。ミナセが得意とする「キレッキレのデザイン」はそのままに、要素を整理して使いやすく丸めた「ホライゾン」… これこそ〝ミナセ入門〟に最適なモデルです (*´∀`*)
旧作がすでに「極限の仕上げ」

現行の「ホライゾン」は「VM12」… 某イベントで私が購入した「VM02」は旧モデルになります。「正規の未使用品」みたいな、ちょっと不思議な買い物でした。
「VM02」と「VM12」の見た目の違いは… デイトディスクの色分けくらいしか見い出せませんが… お!? リューズガードとリューズのバランスが違うように見えますので、断定はできませんが、もしかしたらリューズのサイズアップがあったかもしれません。
細かいことは直接聞いてみないと解りませんが、恐らく仕上げにおいても新作が旧作を凌ぐはずです。ただ、目の前の「VM02」を見れば「果たしてこれ以上の仕上げは可能なのか!?」とさえ思います。旧作の時点ですでに極限です。
静かに「美学を語りだす」恐るべきケースの構造

腕時計ケースの「別体構造採用」には2つの意味があります。ひとつは「金属加工難易度を下げるための採用」。一体で作るには加工の手間が掛かり過ぎると判断されたラグなどで、この別体採用が見受けられます。
もう一つは「一体構造では不可能な複雑なデザイン実現のため」。ミナセのケースはこれにあたります。果たしてこれを一体構造で仕上げる方法は存在するでしょうか??… 「ホライゾン」の構造の場合、一体でも完全に不可能とまでは言えない気がしますが、実現のためのコストを考えたら「実質困難」でしょう。

これは私の「勘」ですが… ミナセのデザイナーさんって「プラモデル組み立ての妙味」を解っている方かもしれません。というのも、ミナセの技術であれば幾らでも詰めて「ツライチ」を目指せるパーツなのに、敢えて「段差」を残した箇所があるのですよ。見付けた私は内心「ニヤリ」としました。「アンタ、解ってるやないか!!」と。
プラモ狂だった少年時代、本物のリアリティーを出すために戦車の砲身パーツを切断し、敢えて「接合部を強調するテクニック」を使っていた私には解ります。別体構造は「別体だと解らせること」こそが〝粋〟なのです (*´ω`*)
「シェル」か「アーマー」か… これはイデオロギーの戦いだ!!

「別体で行くか」「一体で行くか」… 最終的な目指すところに大差はなくとも、どちらの手段を選ぶかで着用者が受け取るメッセージは大きく変わります。仕上げが困難な一体構造で魅せる技術もあれば、一体では不可能な立体化を目指す別体構造もある。
一体構造が隆盛を極める現代の腕時計ケースに、一石を投じてみせた「ミナセのケース」。別体構造で腕時計を「鎧う」ことで獲得した幾重にも重なる金属の層…
メーカーとしての技術的な「得意技の違い」と言ってしまえば確かにそうでしょう。ですが「何を売りにするかの違い」というハイポシスにも注目すべきです。

データシートに記載されるような解りやすいスペックではなく、理解されにくい「ケース」という分野で、一体構造が大勢を占める業界に「再考の余地」を生み出した「ミナセ」。欧州と日本の〝腕時計の巨人たち〟にしても、この「ミナセ」という〝極東の異才〟を無視することはできないはずです。
モノ作りの魂は「見えづらい細部に宿る」

ドーム状にせり上がった風防を横から見ると、ちょっと面白いことになっているのが解ります。針の支点部分がケースの四隅よりも高い位置にあるのです。ダイヤルと風防がしなやかに弧を描き、とてもゴージャスな箱庭を演出しているのです。
「ホライゾン」とは〝地平線〟や〝水平線〟を意味する言葉ですが、このサイドビューは正しく「ホライゾン」…
「ホライゾン」には気付けば〝泣けてくる仕掛け〟が幾つも存在します。ここからは私が見付けた「泣きポイント」を重点的に書き起こして参ります (*´ω`*)
目立たぬからこそ手間を掛けたミニッツトラック

最高級の茶器の如き風格を感じる「ダイヤル」が目立つことは確かですが、ワタシ的には地味地味に抑えた表現ながら、デザインの「核」としての存在が際立つ「ミニッツトラック」で泣きました。
このパーツから感じたものは〝自制心〟です。良くぞ色を付けずに「彫り」だけで堪えてくれました。恐らく色を付けても良い感じにはできると思います。非常に精密に仕上がったパーツですし、如何ようにも遊べたはずです。ですがそこで踏み止まった「ミナセ流、引き算の美学」…
目立たない場所にかけた〝ひと手間〟と、それを誇らない奥ゆかしさ。一歩下がることで他の要素を引き立てる「日本らしさ」が炸裂した「美しきミニッツトラック」です。
蓄光ごとグイッと曲げた「太い分針」

昨今の復刻ブームで「曲げた秒針の美しさ」は再評価されましたが、「ミナセ」は「分針」さえも〝グイッと〟曲げました。かなり「ぶっとい分針」ですし、ここまでしっかり曲がると異様に強く印象に残ります。蓄光ごとですからねぇ。
この「曲がり分針」が美観に与える効果は絶大です。特に時計を横から見た際に分針とインデックスがスレスレで交差する〝緊張感〟の気持ちよさたるや… 泣けるッ!!
「針が曲がってるだけでしょ??」 いやいや!! 正確に曲がった針有りきで設計された「ミナセ」の〝志の高さ〟を汲み取って下さい。

力感溢れるインデックスの凄まじい存在感

「ミナセ」の構造美の両輪は「繊細さとダイナミズムの両立」にあると思います。どちらが欠けてもミナセにはなりません。
その象徴的なパーツが「インデックス」です。円形のセンターと外郭を分かつキャナル。そうやって分断することで得た構造的な奥行きを存在感満点のインデックスが繋ぎ止める様は、まるで演者とオーディエンスが一体になったステージを見るかのようです。う~ん… 泣けるッ!!
一つ一つのブロックは実際とても繊細に作られています。ところが配置されると印象が一変。ロゴを模したインデックスを含めた12個が「ストーンヘンジ」のように意味深に、力感あふれる存在に思えてくるから不思議です。
この「風防」はどうなっているんだ!?

ダイヤルも美しい、針も非常に良く出来ている、インデックスも素晴らしい存在感… ところがですね、そういった美点を多く持っている時計でも、それを覆う「風防」がダメなら台無しなんです。そして最近、何故か「風防でガッカリさせられる時計」が多いのですよ。不思議ですね。掛けられるコストの差がクオリティーに出やすいパーツなのかも??
そもそも四角い風防をピッタリはめるには相当な技術力が必要とのことで、カルティエなんかがその巧みさで知られますが、「ホライゾンの風防」も中々どうして良い感じでハマっています。実際、難しい作業だと思います。何せ「四角いのにドーム型」なのですから。平面の風防を乗せるのとはワケが違います。
無垢のサファイアガラスを表裏から削って磨いて出来上がるホライゾンの風防。ピタリとハマった四隅から頂点に向かって弧を描くその様子はどこか神々しく… 風防だけでも妙に「泣ける」ホライゾンさんだと思います。
| ミナセ〝ホライズン〟VM02 | |
|---|---|
| モデル名 | HiZシリーズ ホライズン |
| ケース素材 | ステンレススチール |
| ストラップ | ラバー(プッシュ式片開きバックル) |
| ダイヤルカラー | ブルー |
| ムーブメント | Cal.KT7001(セリタSW200-1ベース) |
| ケース幅 | 37ミリ |
実は「もう一本」買ってまして…
そんなつもりはサラサラなかったですし、そんなお金なんてどこにもないワタクシでしたが… 実は〝もう一本〟…「ミナセの別モデルを購入」しました。まあ、そういう気分のときもありますよね??(汗)
その辺りの〝言い訳込みの顛末〟は、次のページで!!









ご意見・ご感想
コメント一覧 (2件)
ホライゾンもディヴァイドも一目で
ミナセと分かるデザイン性はお見事です。
最近よくYouTubeなどでも紹介されているので、注目されてきてるな〜と思っていました。
どちらも革ベルトも相性が良さそうだなと思いミナセのサイトを見てみましたが、ホライゾンはレザーのモデルがあるんですね。
レザーのモデルも高級感があってよきでした。
Y太さま、コメントありがとうございます♪
「ひと目でミナセと解る」⇦それだけで見事なデザインだと思います。
しかもミナセ得意の金属加工技術を「見える化」できてますからね。
外見で「なんかスゴいぞこれ!!」と思える希有なデザインです。
レザーも良いですよねぇ~
正規品を買うのもありですが、できればオーダーしたいところです。
この難しい構造をどこが受けてくれるかな??(チラッ)