その印象的な
「ハートビート・カレ(旧型)」を初めて試着したのはいつだったか…場所は梅田阪急のメンズ館…でしたっけ?…中堅ブランドが中心のお店があって、それは実に私好みの場所でした。
とにかく格好いいレクタンギュラーが欲しかった時期なのは間違いありません。レクタンでは少数派ともいえるブレスレットモデルの重厚な存在感。庶民の私の手にも届く価格帯ということもあって、かなり悶々と悩んだことを覚えています。
そもそも
「フレデリック・コンスタント」というブランドは私が目にした最初から
「玄人好み」のラインアップを誇っていました。創業年が1988年ですから、これまた随分早熟でシブいブランドだなぁ~という印象です。
出自は創業者
「ピーター・スタース氏」の曽祖父、
「コンスタント・スタース氏」が1904年に創業した時計の文字盤工房からだそうですが、ほとんど一から始めた新興ブランドと言っても良いでしょう。
そんな同ブランドに関して驚かされたのが、2016年5月の
「シチズン傘下入り」のニュースでした。シチズンが近年、グローバル企業化を目指して活発に買収活動を行っていることはご存知だと思いますが、その中でもフレデリック・コンスタントを手中に収めたシチズンの戦略上の意味を考えると、色々考えさせられるものがありました。
というのも、フレデリック・コンスタントはその頃、スイスのブランドの中でも
「超新星」のように目立っていたからです。手頃な価格で面白い時計を作る新興ブランドとしての足場を、今まさに確立しようとしている…そんな風に見えました。いずれはどこかの巨大資本に買われてしまうのではないか…そう感じていた矢先の
「シチズンによる買収」です。正直かなりビックリしました。そして
「シチズンの慧眼」にも感心させられたのです。
ピーター・スタース氏によると、シチズン側はフレデリック・コンスタントの開発方針などには一切口を出していないそうです。部品や資材のやり取りなどもないため、フレデリック・コンスタントの独立性はそのままに、シチズンの強力な販売網の助けを借りて製品を世界中に届けることが可能になった…ということでした。
確かに
「スウォッチ・グループ」のような巨大コングロマリット傘下に収まったとしたら、グループ内の序列は決して上位ではなかったでしょうし、そのヒエラルキーの中で作りたいものも作れず、不遇をかこつ可能性もあったでしょう。それよりも小粒なれど、有力なブランドを抱える
「シチズン・グループ」の中で有利なポジションを与えられるなら、その方がメリットが多いと考えたのかもしれません。かなり解りやすい話です。
また、スタース氏によれば、ご子息が会社を継ぐことを拒否したらしく、そのことも少なからず影響してのシチズン入りだったのでしょう。私が息子だったら無理矢理にでも継がせてもらいますが…養子にどうですか?(;´Д`)

さて、フレデリック・コンスタントというブランドを世に知らしめたのは、何と言っても、ダイアル面に穴を穿ちテンプを丸見えにした
「ハートビート」しかありません。今やアチコチのブランドで普通に見られるオープンハート仕様ですが、元ネタはフレデリック・コンスタントのハートビートなのです。技術というよりは
「そっち行ったか!」みたいなアイデアの勝利ですが、これが世界中で模倣されるわけですから、新興ブランドとは言え、その影響力は大したものです。
全体的には手頃な価格の機械式腕時計が得意なフレデリック・コンスタントですが、いつの間にか…当たり前に自社製ムーブメントを搭載する
「マニュファクチュール」になりました。近年、その技術はさらに進化。以前
「ゼニス デファイ・インベンター」の話として書かせてもらったこともあるシリコン製の
「オシレーター」を搭載した
「毎時288,000振動」という、通常の
「10倍」もの振動数を誇る自動巻き
「FC-810」を開発したのです。驚くのはその価格。
「FC-810MCN3S6」
出典:https://frederiqueconstant.jp/
『スリムライン モノリシック マニュファクチュール』…お値段なんと
「59万4000円」です。この価格については私も今回調べてみて初めて知りました。
いち早く
「オシレーター」を味わえてこの安さ。ロマンです!これは腕時計野郎どもの心を震わせるロマンですよ!
「所詮はシリコンじゃねえか!」…ヒゲゼンマイのシリコンも許せないアンチシリコンの方は別としても、こういう新技術を惜しみなくミドルレンジに使ってくるフレデリック・コンスタントの慈悲深さ…買えるやん…ワシにも買えるやん(・д・`)
すでに多くの優秀な自社製キャリバーを持つフレデリック・コンスタント。外装は基本的にクラシカルでドレッシーなデザインが中心の展開です。ですのでその対象となる購買層は自然と、酸いも甘いも噛み分けた中年世代から上になるのではないかと思います。
専門誌での評判も上々な同ブランドの記事を読むにつけ、私などは
「もっと若くてアクティブな層に刺さるモデルがあっても良いよなぁ」と感じていました。クラシカルな方向性を得意にするブランドは腕時計に対する明確な価値観を備えているところが多いですし、その辺りを維持しつつ
「ほんのり」アクティブ系に舵を切るならば、それは高い確率での「成功」を約束しているように思えたからです。
そして2020年に出現した
『ハイライフ・コレクション』が、その考えを現実にしてくれました。私はこのモデルを初めて拝見した際、これまで
「ブレゲ風のクラシック」に倣ったような時計を造ってきたフレデリック・コンスタントが、実は模倣の域を超えた
「独自のデザイン理念」に基づくことのできる稀少なブランドなのだと知りました。売れ筋のラグジュアリースポーツの条件を落とし込みつつ、その根っこにあるのは間違いなく
「フレデリック・コンスタントのイデア」だったからです。新しくも懐かしく、そしてブランドの
「これから」も感じさせてくれる
『ハイライフ・コレクション』。その美麗をご覧いただきましょう。
ハイライフ ハートビート(FC-310B4NH6B)
出典:https://frederiqueconstant.jp/
ブランドの象徴
「ハートビート」仕様の
『ハイライフ』です。自動巻き
「FC-310」を搭載して5気圧の防水、SSケース。ケース径は41ミリ、ケース厚は10.84ミリです。インターチェンジャブル仕様で着け替えの簡単なラバーストラップが付属しています。価格は25万8500円 (税込)です。
ラグなし、ケースサイドからブレス終端に至る流麗な接続…古今東西のラグジュアリースポーツの多くに共通する外見です。ですが、言葉を選ばずにそのまま私の感想を述べるなら…この
『ハイライフ』、何気にちょっぴりダサいですよね?
完全無欠の格好良さを手に入れることに対して、時計自身が自発的に抵抗を試みている…そんな風にも見えます。
「どや!カッコええやろ!」みたいに自信満々の態度とは真逆の、どこか頼りなさげで不器用な佇まいなのです。
「こんなオレでも…大丈夫?」と消費者に問いかけているようにすら見えます。
だけど、この
『ハイライフ』に関して言えば、それが良かった。
正直言って最近の私、近年のラグスポブームには食傷気味でした。高級感を前面に押し立てて消費者を圧倒してくる感じ…時計としての素晴らしさは間違いないところですが、文化としては何かこう…
「もうええから!」とすら思っていました。もしかしたら、腕時計界をつまらなくするのは、大人気のコイツら
「ラグスポ」なのではないか…そんな風にも感じていたのです。
そもそも、多くのラグスポはシンプルに一体化されたアウトラインのデザインです。ベゼルやブレスの形状で差別化を図るも、一括して
「ラグスポ」と括れてしまう程度の同一性は見て取れます。故にリストショットでも取らない限り細かな個体差確認は難しく、他人から見れば、余り印象に残らない時計が多いと思います。
また、格好良い、良すぎるというのも
「つまらなくなる要因」です。以前、自動車の雑誌でこんな一文を見たことがあります。
「本当に良い自動車は、人が乗った状態が最も美しい」と。
これは腕時計にも当てはまります。腕時計が人が身に着けるものである以上、その存在感の
「完成」は腕に装着した状態で成されねばならない。
ところが
「格好良すぎる腕時計」は、物体としてすでに完成してしまっているため、人の腕に巻かれた状態…本来なら最大の魅力を放つべき
「完成状態」が、その輝きを失ってしまっているのではないか…長年の私の疑問はそこにありました。
良い腕時計には、敢えて作られた
「隙」があるように思います。そしてその隙間にプラスアルファとしての
「装着者」の存在が加わることで完成するのです。
この
『ハイライフ・コレクション』に私が感じた
「ダサさ」は、もしかすると、フレデリック・コンスタントが敢えて作った
「隙」なのかもしれません。私は今のところ
『ハイライフ』を購入してはいませんし、手元でマジマジ鑑賞したわけではありませんが、何と言うか…モテる男女に共通の魅力に近い
「こんな自分でも何とかなるんじゃないか」と思わせる絶妙な隙を感じるのです。
ハイライフ オートマチック COSC(FC-303N4NH6B)
出典:https://frederiqueconstant.jp/
お次はクロノメーター認定で信頼度を獲得したシンプルなデザインのコレ。…この色気ですよ!それもこれみよがしに誘うような装いではなく、普通の服装なのに色気がだだ漏れしているような…そんな感じです。こんなの着けたら手元ばっかり見ちゃって仕事にならん!
ハンドとインデックスのデザイン的な関連性が、時計全体の視覚的なガチャつきを防ぐ配慮であると解ります。
「カタチ」の要素を削っていくのはデザインを洗練させる常道ですからね。
私はデザイナーの端くれでもありますので、この辺りのちょっとしたまとめ方の巧さに感心しました。ハートビートというド派手な
「ヘソ」はありませんが、それでも十分に戦えるダイアルです。
自動巻き
「FC-303」搭載。デイト表示ありで5気圧防水。ケース径は41ミリ、ケース厚は10.84ミリ。SSケース。インターチェンジャブル仕様のラバーストラップ付、COSCの認定証も付属しています。お値段は25万8500円 (税込)です。
ハイライフ ワールドタイマー マニュファクチュール(FC-718N4NH6B)
出典:https://frederiqueconstant.jp/
ああ、これまたタマランやつだ(笑)
グローブパターンのダイアルが最高に活きるワールドタイマーです。世界各地の都市名がギューギューに書かれたダイアルって、何でこんなに格好良いんでしょう。
6時位置の
「ポインターデイト」「都市表示ディスク」「24時間ディスク」…それら要素の醸し出す芳醇なハーモニー。ややこしい系ダイアルがお好きな方の心にはグサグサ刺さるはずです。
それでいてしっかりと厚みを持ったインデックスとハンド、その双方が強いファーストインプレッションを以て装着者の視覚を混乱させない作りになっています。フレデリック・コンスタントはダイアルデザインが魅力的なメゾンだと思います。見ちゃうなぁ~、仕事中でもマジマジ見ちゃうなぁ~(*´∀`*)
自社製の自動巻きキャリバー
「FC-718」を搭載。ケース径41ミリ、ケース厚12.90ミリ、5気圧防水、SSケース。インターチェンジャブル仕様のストラップは
「ラバー」と
「ヌバック」の2本が付いています(何それオトク!)お値段は49万2800円(税込)です。
ハイライフ トゥールビヨン パーペチュアルカレンダー マニュファクチュール(FC-975N4NH6B)
出典:https://frederiqueconstant.jp/
最後は
「トゥールビヨン」をご紹介。
地味な印象のフレデリック・コンスタントですが、2008年には最初のトゥールビヨン
「FC-980」を開発。立派なマニュファクチュールになっていました。もう
「超」付けてもいいくらいの
「一流メゾン」ですよ(*´∀`*)
3つのインダイアルを配置したコンプリケーションモデルで尚且スケルトン仕様。透けて見える自社製の
「FC-975」は美しい装飾で縁取られ、ブランド全体のトップに君臨するに相応しい豪奢な出来栄えの時計です。
ちなみにカレンダーは
「パーペチュアル」です。何かもう凄いことになってた(笑)
流石に価格は行ってしまいましたが、それでもこれだけ詰め込んでのお値段と考えると高すぎるわけではありませんし、現実的なお値段で
「トゥールビヨン」が手に入る貴重な一本と言っても良いでしょう。
ただ、私の好みを述べさせてもらえるなら、こういう最高の存在にこそブランドのアイコンである
「ハート・ビート」を搭載してほしかったですね。スケルトンも良いですが、そこを敢えて隠す
「淑やかさ」を示した方が、この
「ハイライフ・コレクション」には相応しい気がします。
自社製の自動巻きキャリバー
「FC-975」を搭載。ケース径41ミリ、ケース厚12.65ミリ、3気圧防水、SSケース。インターチェンジャブル仕様のラバーストラップが付いています。世界限定88本。お値段は327万8000円 (税込)です。
以上
「ハイライフ・コレクション」の中から
「4本」ご紹介させていただきました。防水がせいぜい
「5気圧」ですので、スポーツモデルと言うには頼りないところもありますが、街中で普段遣いに着けこなすなら何の問題もないところです。
やはりこのコレクションの魅力は、流行りのラグスポにありがちの
「行き過ぎた格好良さ」から2、3歩下がった
「スタンス」にあると思います。十分に格好良いけど、格好良過ぎはしない。
「ダニエル・ウェリントン」の流行りが起きた時に感じた
「少し足りないくらいの方が身に着けやすい」というトレンドの延長線上に出現した
「ラグスポ風味の時計」がフレデリック・コンスタントの
「ハイライフ・コレクション」なのではないでしょうか?
「自分に似合いそうなラグスポって、中々見つからないよなぁ」とお悩みの貴兄にとっては、この
「ハイライフ・コレクション」が福音になるかもしれませんよ(*´∀`*)
以上4点以外の
「ハイライフ・コレクション」をご覧になりたい方は、以下のリンクへお進みください。
また今回も安定の6000字超え…(汗)
駄文長文にお付き合い、ありがとうございました(*´∀`*)
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